短編映画コンクール

今年は全国から98作品の応募をいただき、まことにありがとうございます。
伊藤俊也審査委員長による厳選なる審査の結果、以下の通りグランプリ、準グランプリ、入賞作品が決定しました。(敬称略)


作品名 監督名 時 間 出身地
グランプリ
こんぷれっくす×コンプレックス ふくだみゆき 19’56 群馬県
【審査委員長 品評】
アニメーションというにはお手軽な方法が採られているが、かえって端的にストーリーには入って行きやすいのかも知れぬ。そして少女を腋毛フェチにしたことで、中学二年生という極めて限定的な時期の乙女心、それに翻弄される男子生徒の在り様を見事に<絵に描いてみせた>。
小谷ゆいには、水泳教室も男子の腋毛の品評会でしかない。そこで大人にも負けないとして最高点を与えられたのがクラスメートの武雄マサト君。彼女の方から接近が始まる。そして姉に前髪を切られ過ぎたというゆいに、マチルダに似ていると言われ映画を見て以来、カンフー映画の好きな武雄君にジャッキー・チェンを紹介されるが、彼女の作品の評価はあくまでも男優たちの腋毛、この辺りのちぐはぐな会話が面白い。いつも彼女に自分の腋毛を見られている気がして(まさにその通りだが)、ある日突然腋毛を剃ってしまった武雄君。それをプールで発見したゆいは、ほとんどパニック状態。なにしろ、武雄君の腋毛にかかれば、ジャッキー・チェンなど物の数ではなかったからだ。かくして、そのショックを直に武雄君にぶつけるゆいは、勇敢にも率直に自分の腋毛フェチを告白する。それに応えて、武雄君も濃すぎるための腋毛コンプレックスを告白し、夏休みに上映される映画に一緒に行く約束もできて二人がいい関係に進むように見せ、武雄君に好きだと言わせたところで、ゆいはあくまでも武雄君の腋毛に惚れていたのであって、決定的なところで「ごめんなさい」させてしまうという、恋の残酷さも用意されている。
そして、長い空白の後の新学期、二人は廊下で立ち話をするが、武雄君には付き合い始めた女子がいるようだし(一度は約束していた映画を一人で見たと言っているが、実は怪しい)、私も腋毛が生えたと言うゆいは、すでに腋毛コンプレックス=腋毛フェチから解放された様子で、かなり大人になった気分のようだ。会話に絶妙の味を染み込ませて展開する「ある夏の出来事」、これは確かに実写ではなくアニメ固有の素材だったかもしれない。
準グランプリ
N.O.A 下向拓生 15’00 愛知県
【審査委員長 品評】
これはアイデア賞ものの作品だ。ロボットなり未来機器類が人間を支配する話はSFの世界では常識だが、ここに描かれた世界はもうほんのすぐ近くにある世界だといっていいだろう。スマホの持つ秘書機能が進化すれば、なるほど便利さを超えて超わずらわしくなるだろうことは容易に想像がつく。自分の車に乗り、住所を言ってそこへ案内しろといえば、自動車は走り出すはずだ。だが、秘書機能が進み過ぎると、余計な口出しをしてくることになる。この映画はここから始まる。そこへは行けませんという返事。なぜなら、あなたは(ご主人様は)殺人を犯そうとしているからです、とこうなる。それも単純に答えを出してくれない。いかにも様々な仕様がありそうで、余計なところで運勢を持ち出したり、かえって人間以上に過剰なものが持ち出されてくるからくりが巧みに綴られる。老婆心さながらに深情けで迫る秘書機能のスマホの設定は、なかなか見事な脚本術だ。さらには、無謀運転で殺された恋人のスマホの秘書機能まで絡んできて、結局は復讐を断念するオチがつく。この作品がアイデア倒れに陥らずに済んだのは脚本の功績だが、やはりアイデア以上のものではなかったというのも正直なところだ。
入賞
帰ろうYO!(20minutes) 松本卓也 20’00 東京都
【審査委員長 品評】
仲間内のヒップホップグループの解散を機に、故郷へ帰って向こうで仕事も見つけようと決めたラッパーたる青年が、同棲している彼女に結婚を申し込み期待以上の快諾を得た。ラッパーをやめて何の取り柄もなくなったはずのオレに彼女はついてきてくれる。ところが、そうは問屋が卸さない。彼女(まい)は帰郷の道中、一回失神したかに見せて、もはや元の(まい)ではなくリズム星人だと称して、初対面の母親の前でも遠慮なくボイパをやってのける。彼女に通常のセリフでなく、このボイスパーカッションをふんだんに使って、立ち回らせるところが本作の工夫であり見所だ。そして、そのことはラッパーであることをやめたと言いながら未練を残している彼氏(りく)への挑発者を任じていることがやがてわかってくる。夜の橋の上を酔いつぶれた(りく)を背負って家路を辿るシーンが見せ場にもなっている。(りく)は母親と離婚してから久しく会っていなかった父親にも会い、そして、その報告に来た畑仕事中の母親の前で、(まい)に促されるようにラップで母親への感謝を綴る。母親も一緒にそのリズムに乗るという仕掛けだが、このラップがどうにも幼稚に聞こえ、有終の美を飾れなかったのが残念だ。
紳士のスポーツ 宝隼也 17’43 長野県
【審査委員長 品評】
一言でいうと、順序を追って坦々と丁寧に作られていることで、かえって肝腎の作品のツボといったものを見えにくくし損をした作品のように思う。バス停で通勤バスを待つ間ゴルフの素振りを習慣としている中年というには老け、老年というにはまだ少々色気もあるといった男が、最近一緒になる若い女性が気になっているという設定だ。第一章とは書かれないが、代わりに<ゴルフと恋は紳士の嗜みである>と「禅とゴルフ」という本に書かれているらしい箴言めいたものが表示され、以降展開にしたがってというより、展開を促す形で、全部で四つの箴言が現われる。まるで、起承転結といった按配に。その一つ一つの箴言が、女に強い関心を持ちながらせいぜいペンを貸してやるぐらいが関の山の男を<スウイングがなければ、ボールは飛ばない>などとからかい気味に進み、女の同じ職場の先輩の男が車の故障中ということでバス停組に加わると、結局ボールを飛ばしたのは他ならぬ女という皮肉な結末が用意されている。結果的にとんびに油揚げを取られたわが主人公は、雨の中で自棄のように素振りを繰り返すというわけである。ここで<真のスウイングは雑念を払う>と出ればぴったりくるのだが、残念ながらこの箴言はこの件の冒頭に出るという憾みが残る。といった、ボタンの掛け違いが時には致命傷になることもあるわけで、こういった短編では主人公をあくまでも中心点として描いておかないと、主人公を外したところで女の先輩の男へのアプローチを描いても理に落ちるだけで、突然最後に車で二人が登場するといった処理の方が、主人公だけでなく観客をもあっと言わせることは間違いない。
審査員特別賞(声優賞)
林奏絵さん「こんぷれっくす×コンプレックス」
入選
温時泉光 松田奈月 19’18 神奈川県
【審査委員長 品評】
三十年前、中国の紹興に旅した幸治はそこで李美雲と運命的な出会いをする。二人は次には幸司の地元である日本の那須に美雲が訪ねてくることでより深い絆が生まれることを信じて疑わない。それが、まさに今のこととして手紙のやり取りが声で交換される趣きで、美雲は日本に着き那須の約束の地へと向かっている。だが事実は美雲は美雲でも、かつての初々しい美雲ではない。三十年という時間の経過があるという仕掛けだ。というのも幸司に会いに行こうとする美雲を阻んだ地元の青年がいたのだ。自暴自棄になったその青年を美雲は捨てきれなかった。そして日本行きを、幸司との再会を断念したのだ。そして三十年の時の隔たりを経て、那須の約束の神社に向かう美雲の前に立ち現われたのは・・・。
三十年という時の隔たりを淡い恋心そのままに淡く切なく描こうとしているが、昔と今の間の深い断絶感を描き切れなかったために、一向に胸に迫るものがない。三十年の隔たりを経て那須にきた美雲に異なる女優(年齢相応の)を当てていることも、かえって興を殺ぐ結果をもたらした。
珈琲色彩 赤羽健太郎 19’06 長野県
【審査委員長 品評】
珈琲の味一つで、男から別れ話の出ている女の依頼に応えて、男を引き留めようというストーリーが大真面目で綴られる。あの時飲んだコーヒーの味が忘れられないという男の言に、女はそれがモカ・マタリだったことを突き止め、それを珈琲屋に求めに来るのだが、結局あの時の味ではないと突っぱねられ、泣く泣く珈琲屋の女主人に助けを求めるのだが、女主人は、心変わりは防げないけど、今の心を知ることはできるとかなんとか、今の彼にぴったりの珈琲のブレンドに成功する。これが現代のおとぎ話にみえるどうか、甚だ怪しい所だ。どうせなら、珈琲媚薬説でも打ち出して、ブラックユーモアに徹する方がインパクトは強くなるだろう。
太陽は胸の中に 林 弘樹 15’25 埼玉県
【審査委員長 品評】
かつて自分も少女心に不安を抱いた年頃に、自分の娘がなったことを意識している母親の、山と森に囲まれた田舎暮らしがスケッチ風に綴られる。伐採の仕事をする夫、そして村の初午の行事の一つ、子供たちの参加する神様への奉納演目で神主役をやる娘、その弟の息子、との暮らし。不安を抱かえながらも神主役を無事務め上げた娘は、さらに成長するだろう。表題は、この母親の願いでもあり決意でもある。母親の心と同時に、南砺市利賀村の風物は美しいが、そこに、いやそこだけにとどまっている映画でもある。母親の語りに混じって、途中娘の一言も入れられていたが、狙いが不分明になったように思われる。
また会う日まで 岡部哲也 7’45 東京都
【審査委員長 品評】
広い墓地の一角。墓に詣でる男女。一人はそれなりの大人で、一人は制服を着た少女。だが、一緒にお参りしているのでないことは直ぐにわかる。少女はこの墓の主、死せる少女であることが。少女の歌う「今日の日はさようなら」。少女と男は学友、かつての恋人。
谷川の急流で溺れかかった少年を救おうとして死んだ少女。彼女が見守るうち、遅れて、男の婚約者が現われる。男は二人が結婚することを墓前に報告に来たという。すでに妊娠もしているという。少女は祝福するしかない。子供が生まれたらまた報告に来るという二人が去っていく。全くの性善説の作品。ピュアすぎて物足りないということもあるのだ。
窓の外側 柴田啓佑 7'13 静岡県
【審査委員長 品評】
父親の転勤で静岡に来ることになった女子高生の話。転校生によくあるように、最初は孤立していたが、あるきっかけで女子にも男子にも友達が出来た。転校してきた頃は、大学を受けて東京に帰るまでの辛抱と考えていたのが、大学を卒業してみると、静岡で就職もし生活もしようと帰ってきた、めでたしめでたしという話。しかし、この作品は富士山が登場するだけで、それを除けば、他のどの地方都市、いやど田舎でも同じって感じ。静岡のいいところを強調する話はもっともっと破天荒に作れるはずだぜ!
リマインド 吉田岳男 20’00 東京都
【審査委員長 品評】
ある古い御屋敷で、時計を修理したお礼に執事風の男からいわゆる魔法のカンテラを貰ったヒロインが、幼い頃友達の女の子が宝物として大切にしていながら自分に呉れた水晶玉を、カンテラを頼りに探し出そうとするファンタジーである。だが、その女の子というのが、まもなく行方不明になるという事件があり、周辺の山林でも捜索が行われている最中、ある場所にその水晶玉が落ちているのに気づきながらも、何だか恐くて言いそびれたという曰く付きのものである。しかし、時系列で言えば、すでに水晶玉はヒロインが貰っているはずなのに、不明の少女の置き残したもののような表現には疑問が残る。ヒロインがそれほど大事な思い出の品である水晶玉をなぜ失っているかも明らかにされない。だから、ヒロインが魔法のカンテラで水晶玉を見つけたとしても、何の感動も生まれるはずはない。行方不明事件もただありましたというだけでは、その先により豊かなファンタジーが成立するとは思えない。

 



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