第20回八ヶ岳フォトコンテスト
全国から95名、263点のご応募をいただき誠にありがとうございました。(敬称略)
金賞(茅野市長賞)
赤岳晩秋
鈴木 秀樹(神奈川県川崎市) 撮影地:ツルネ
【選評】
晩秋の高山というのは山肌の表情が地味で絵にしにくいもの。しかし作者は、そうした「不利な被写体」を相手に精彩に富む作品を生み出している。前景の配し方がとりわけ見事だ。ダケカンバの樹を山肌とかさねずに空間にうけたたせたことで、その存在価値が高まっている。ハイマツの緑が画面に生気をもたらしている。点在するシャドウ部がほどよく画面を引き締めている。技量の確かさを感じさせる作品だ。
銀賞(茅野商工会議所会頭賞)
光の鼓動
根橋 良紀(長野県茅野市) 撮影地:八岳の滝
【選評】
興味の中心だけを大胆にクローズアップしているインパクトの強い作品だ。滝が滝らしく描かれているとはいえないが、この際それは問題ではない。部分切り取りによる抽象性がこの写真のおもしろみである。「なにを撮ったのだろう」と、見るものに瞬時、不思議の念をいだかせれば成功だ。真綿のような流れ、すだれのような滴り、斜めに差しこむ木洩れ陽、小さな虹。四者の絡みがつくりだす混沌模様がおもしろい。
銀賞(茅野観光連盟会長賞)
厳冬(げきとう)
神谷 浩造(愛知県高浜市) 撮影地:坪庭
【選評】
太陽を立木に隠すためにカメラマンをすこしずつ移動させながら、作者はチャンスを待ったことだろう。その甲斐あって、強風に舞い上がる雪煙が迫力をもってとらえられている。限度ギリギリまでアンダーにした露出がここでは適正露出。その好判断により主題の雪煙が強く精細に描写され、中ほどの黒い立木に周囲にマッチする結果となった。モノクロマチックな画面からは、冬山の厳しさがよく伝わってくる。
銅賞(小海町観光協会長賞)
支えられて
小林 茂良(長野県茅野市) 撮影地:蓼科大滝付近
【選評】
大岩に一身をあずけた老木。珍妙な被写体に出会って作者はそれをうまく絵にしている。こうした被写体はフレーミングの巧拙が出来映えを大きく左右するものだが、作者はいいポジション、いい角度から、過不足なく切り取っている。大岩と老木とを左側に寄せ、右側に空間を設けた配置もいい。「支えられ」というタイトルから推察するところ、作者はこの老木に人の姿を重ねみていたように思えるだ。
銅賞(八千穂村観光協会長賞)
夕照の滝
輿石 浩(長野県岡谷市) 撮影地:乙女滝
【選評】
夕陽に色づく氷の壁と流水とを中心題材にして「冬の滝」を迫力満点に表現している。適切なシャッター速度によって動感ゆたかに描かれた流水と凍りついた壁と、夕焼けの滝と青い空と、手前にある丸みをおびた氷塊と直線的な氷の壁と、これら三つの好対照が骨格をなす作品だ。後景として配された黒い樹木が画面に変化をもたらし、と共にアクセントとして画面をきりっと引きしめている。
銅賞(八ヶ岳観光協会長賞)
夕照の樹林
河西 俊郎(長野県諏訪市) 撮影地:三井の森
【選評】
童話の一場面を想像させる、メルヘン的な作品である。不思議と心ひかれるものがある。三角屋根の白い家・・・メルヘン的な世界へと誘う一番の要素はこれであろう。この写真を撮るために建てたかのような、風景によくマッチした建物。お話の主人公がいまにも笑顔で出てきそうな建物だ。たとえ人工的であっても、周囲に調和していれば、自然風景写真の大事な被写体である。タイトルはもうひと考えほしい。
ラムダ賞
権現岳厳冬
輿水 忠比古(山梨県須玉町) 撮影地:赤岳山頂付近
【選評】
稜線の山をストレートに写した、オーソドックスな山岳風景写真。「赤岳からの権現岳」は、八ヶ岳の「名場面」のひとつで、よく写され、絵柄の新鮮みには欠けるが、画面づくりは非の打ちどころがない。斜光線下にある早朝の山を、情緒的な味つけをいっさいせずに、力強くとらえている。遠近感、立体感の表現がよく、山肌の描写も申し分ない。赤みがかった遠景と青みをおびた近景との色彩対比も効果的だ。
モンベル賞
晩秋の白樺林
関 武文(長野県岡谷市) 撮影地:八千穂高原
【選評】
白樺林と紅葉の潅木との対照が美しい。「きれいだな」と、素直に入り込める作品だ。樹林風景というのはフレーミングのむずかしい被写体のひとつ。ポジションをわずか移動しただけで、樹々の重なりぐあいが異なってくる。重なりをなるべく少なくして、林をすっきりとみせるのがこつだ。この作品には、その点の配慮が充分に窺われる。右側の一本と、中央やや左寄りの一本と、二本の太めの樹木が画面の柱になっている。
長野日報社賞
氷上のカメラマン
植田 好洋(神奈川県相模原市) 撮影地:白駒池
【選評】
実際は凍っているのだが、水面のようにみえるところがポイントである。さきに題をみなければ、だれもが一瞬びっくりするであろう絵柄だ。合成写真かと、うたがうかもしれない。いずれにせよユーモアたっぷりの作品で、作者の遊びごころが充分に感じられる。遠景をなす樹林の凹部に人物をかさね、それを画面中央に配した「わざとらしさ」が滑稽度をいっそう高めている。選者なら、題は「湖上の・・・」とする。
茅野市民新聞社賞
森の陽光
三平 愛(千葉県千葉市) 撮影地:北横岳
【選評】
冬に北八ヶ岳を歩けば、あちこちで普通に出会う風景である。ともすれば見過ごしがちな、そうした「平凡な風景」に目をとめた点がいい。ていねいに風景と接する人に違いない。雪晴の朝であろうそのすがすがしさがよく伝わってくる。暗部が多くを占めているものの、逆にそれが陽の光をきわだたせ、明るい印象をあたえる。ほどよく配された左奥の林が、画面に深みをもたらしている。
努力賞
白駒池
伊藤 長治(長野県茅野市) 撮影地:白駒池
【選評】
「手軽に行けて絵になる場所」として人気の高い白駒池。このたぐいの写真はよく写され選者もたびたび目にしてきた。その点では類形的で新味に欠けるが、絵柄じたいは悪くない。スカイラインの凹部を基点に、大空に広がる朝焼け雲。いい位置に生じたいい雲を主題材に、朝焼けを強調する適正露出で見映えのする作品をものにしている。雲の倒景(水面)をもうすこし多く入れてもよかったのではないか。
朝霧に咲く
藤沢 吉幸(長野県茅野市) 撮影地:八千穂高原
【選評】
薄紅色のツツジはトウゴクミツバツツジであろう。いまが盛りと咲誇る一本のツツジが、新緑の林を背景に象徴的に描かれている。花の群れを強調しているのは、いうまでもなく背景の対比的な色彩と霧の省略効果。霧によってやわらげられた新緑と、ツツジの薄紅色とがみせるなごやかな色模様が好ましい。ツツジのうるさい枝ぶりと、すっきりした直線をもつ背景の樹木との対照も見のがせない画面効果だ。
霧景
矢崎 政安(長野県諏訪市) 撮影地:八千穂高原
【選評】
霧に隠れて背景がほとんどない状態では、こうした絵づくりをするほか無かった事と思われるが、制約が逆に好結果を生み、おもしろい作品になっている。中央に置かれた主題材と広く配された「何もない空間」との掛け合いが生む、えもいわれぬ雰囲気味がある。作者はこのとき、ほかにどんな絵柄のものを撮ったであろう。選者なら、主題材をもっと小さくあつかった、さらに空間の多いものなど写したに違いない。
錦の中に
松田 悦司(長野県長野市) 撮影地:横谷渓谷
【選評】
緑の季節から紅葉の季節へと移りゆく過渡期の樹林が、派手やかに描かれている。まだ夏すがたの樹もあれば、赤く色づいた樹もある。その「色とりどり」が興味深く、落葉樹の楽しさの一面を味わわせてくれる。白樺の白い幹と川の流れとが画面に変化をもたらし、と共に恰好のアクセントになっている。コントラストの強い刺激的な写真もいいが、こうした底ぬけに明るい穏やかな写真もまたいいものだ。
風の軌跡
関根 捷洋(栃木県足利市) 撮影地:坪庭
【選評】
風の造形シュカブラ(波模様を描いて凍りついた雪面)が、たしかなカメラワークで欠点なくとらえられている。夕方間近の低い光線によって精細に描写された雪面の質感・立体感、いくつものハイライトの曲線が生みだす動感・リズム感、広角レンズと縦位置画面と遠景配置と、三者の組み合わせによって最大限強調された遠近感。これらの相乗作用が画面を表情ゆたかな、力強いものにしている。
ヤナギラン
藤森 正人(長野県諏訪市) 撮影地:赤岳鉱泉付近
【選評】
きれいな写真である。ヤナギランの美しさを十二分にひきだした美的にすぐれた花の写真だ。と同時に、程度の高い生態写真でもある。ヤナギランという植物の花の咲き方(下から順に咲いてゆく)がよくわかり、葉の形やつき方もよくわかる。画面構成的には、二本を被写体とした点に工夫が感じられる。むだな空間(左右に)の発生が避けられ、充実した画面を生む結果となった。バックの色合い、ボケぐあいもいい
夕照に染まる雪壁
山下 研作(神奈川県平塚市) 撮影地:赤岳鉱泉付近
【選評】
残念、としかいいようのない作品だ。画面の右側をもうすこし切り(プリント上で端から2~3センチ)そのぶん左側を入れたなら安定感のあるいい絵柄になったであろう。流雲を充分に描きたくてこのような切り方になったのだろうか。「夕焼けどきに雲がながれる」という状態は、横岳周辺では珍しい事ではないが、なかでもかなりの好条件である。画面のバランスさえよければ上位に入賞していた作品である。
水草模様
守屋 萬吉(長野県茅野市) 撮影地:白駒池
【選評】
湖面に浮く水草だけを題材にした簡明な作品。作者の「撮りたかったもの」がこれ以上はっきりとわかる写真もない。曲線をなす水草、直線を描く水草。この違いは、草自身の意思によるものなのか、それとも水の仕業か、風の悪戯か。そんな事を考えながら選者は作品を拝見したのだが・・・。後景を配したことで、たんなるパターン写真ではなく、深みのある風景写真になっている。後景の配し方、分量ともにいい。
残照うけて
小松 彦太郎(東京都清瀬市) 撮影地:野辺山高原
【選評】
一本の立木と夕月と遠景をなす林と背景の空を除けば題材は三つ。しかもすべてがモノトーン。きわめてシンプルに表現された夕景である。そのシンプルさがまず感じさせるのは「静かさ」。闇に近づきつつある上空から、まだ落日の明るさが残る地平線付近への暗から明への階調が、昼と夜とにはさまれたニュートラルな時間を感じさせたりもする。三つの題材をバランスよく配置している。