第23回八ヶ岳フォトコンテスト
全国から96名、278点のご応募をいただき誠にありがとうございました。(敬称略)
【総評】
応募総数二百数十点の中から特別賞と云う新たな賞を含め20点を選んだのだが、多岐に渡る作品の傾向に苦労した。最終段階の40点ぐらいからは、優劣付け難い事も多く在ったが、賞の傾向にふさわしい作品を選ばせてもらった。全般的に夕陽、朝陽の絵が多いのは、それ等の光の高い価値観から当然だが、昼の光や雨、霧の中にも美しい世界は発見出来るものである。その発見の喜びも知ってほしい。季節で云うと、やはり夏の作品が少なく、もっと夏の名画を捜して欲しいのである。山岳だけにこだわらず、山と動物、そこに在る人々と山とのドラマを捜すのも一つの方向であろう。黙々と稜線を歩く人と山。頂上で暮色に沈む人のシルエットなど、人ありてこそ山が在る名作に続いている瞬間も考えられる。今回の特別賞の設定は、そうした意味も含めてより広いテーマや作品を望み、より多くの参加者に発表の場を開く目的で作られたものです。来期の作品により発想の豊かなものを期待します。(新妻喜永)
茅野市観光連盟賞
雲の切れ間より
輿水 忠比古(山梨県北杜市) 撮影地:硫黄岳
【選評】
厳しい冬の高山の寒気がガスと残陽(アーベントロート)に演出され、山のダイナミズムと美しさが良く表現されている。背景の暗雲も効果的で、山頂小屋と天望荘が山の雄大さを引き立たせている。横岳や赤岳の山ひだの表現も厳しく美しい。
茅野商工会議所賞
朝光
鈴木 秀樹(神奈川県川崎市) 撮影地:権現岳山頂
【選評】
暗黒の影の先に残陽に燃える山の雄姿と岳樺や這松の織り成す山襞が美しい。雲海の深さと遠く輝く御嶽山や乗鞍岳が高山の雄大なスケールを引き立たせている。もう少し手前のシャドー部分を多くすると赤い峰が引き立つ。
八ヶ岳観光協会賞
おだやかな夕暮れ
中村 好伸(千葉県流山市) 撮影地:赤岩ノ頭
【選評】
手前の寒気に満ちた美しい青い雪稜の前に堂々と残陽に輝く横岳の迫力は流石に力がある。更にその奥に青く静かに居座る赤岳は、この連峰の主人として威厳を見せている。もう少し前に出て、谷の深さが出せればもっと良かった。
小海町観光協会賞
秋流
小金沢 光明(群馬県下仁田町) 撮影地:湯川渓谷
【選評】
秋も深まりを告げる湯川の静けさが、スローシャッターでの水の美しさと溶け合って見事である。岸辺に舞い落ちた紅葉が華やかさを添え、左手の葉のブレが動を表現していて良い。右手奥の影も奥行きを感じさせる。タテ位置の構図で水が降るアングルは涼し気で面白い。
佐久穂町観光協会賞
静寂な一時
安藤 紀嗣(長野県岡谷市) 撮影地:白駒池
【選評】
朝陽に焔(ほむら)立つ湖面の霧が闇から浮き出し、朝焼けの華麗な色と草むらの水滴が森の闇とバランスを取って見事。孤独な旅を誘う叙情豊かな秀作である。矢張り撮影は早朝か夕方にチャンス有りですね。
ラムダ賞
染まる滝
有賀 均(長野県辰野町) 撮影地:乙女滝
【選評】
陽に染まる冬の花々しい岩に程よいスローシャッターの水の効果が美しく、手前の氷との対比が素晴しい。作画の重要なポイントはトリミングであるが、この作品は将にその点でも成功している。乙女滝とは思えない迫力である。発見と創意が作品を生み出す。
モンベル賞
吹雪去りし稜線
山下 研作(神奈川県平塚市) 撮影地:地蔵尾根上部
【選評】
厳冬の八ヶ岳の最も迫力のある場所に良いタイミングで居合わせたものである。光の当り具合も良く、色調も寒気を表現して素晴しい。更にこの作品を成功させているのは登山者の姿である。人の存在が山を大きくし、山の表情が人にドラマを感じさせる。
信濃毎日新聞社賞
樹氷の連峰
山下 和人(長野県茅野市) 撮影地:ロープウェイ車内
【選評】
夕陽に輝く手前の樹氷と雪原の美しさは将にロープウェイの中からしか狙えないナイスアングルである。美しい氷の樹海がたおやかに広がる先に天狗から西岳までの山脈(やまなみ)が連なり、八ヶ岳の深さを見せる。よく見る風景とは云え冬のアーベントロートは最高である。左手をもう少し切った方が落ち着く。
長野日報社賞
悠久の屋根
須田 敏男(岡山県岡山市)
【選評】
日本第二位の高峰を中心に広がる南アルプスの冬の夜明けは見事である。谷を挟んで手前にうねる権現岳は更に美しいが、左手前の岩が苦しい。この岩の上から狙えば山の深さと迫力は一段と増しただろう。構図も左右もう少し詰めたい。
茅野市民新聞社賞
錦秋の御射鹿池
柳沢 益喜(長野県富士見町) 撮影地:奥蓼科
【選評】
落葉松林の黄葉は秋の終焉を告げる。その森が陽に染まり湖面に広がり、静寂の中に激しく燃え盛る。例え訪れる者が居なくても。手前の白樺の木々が画面のバランスを取り、右手のシャドウが池の広さを表現して見事である。去り難い美しさだ。
特別賞
霧湧く赤岳
小島 輝夫(神奈川県横浜市) 撮影地:横岳石尊峰附近
【選評】
未だ夏は終わらない壮快な朝の赤岳。這松の緑が眼に痛い。ガスに浮かぶ雄大な主峰の奥にクッキリと南アルプスが見えるのは、台風一過の為か。実に夏山らしい作品である。ただ、手前の岩稜をもっと出し、前景を作ると山の雄大さと空気感が出せる。
埋もれるカモシカ
今井 久雄(長野県茅野市) 撮影地:南蓼科
【選評】
動物を撮るのは忍耐が要る。長い調査とその習性を知る必要もある。たまさか出会ってもカメラの準備が間に合わなかったりする。だがカモシカはウシ科に属していて動きがゆっくりである。特に雪の中で出会ったのはラッキーだ。体毛も豊かで愛くるしい奴ではないか。もう少し上の森の表現が欲しかった。ピントももう少し。
夕暮れの荷揚げ
山下 幸子(埼玉県飯能市) 撮影地:硫黄岳山荘
【選評】
山岳写真と云うよりは、山での写真だろう。近年山小屋では大切な仲間であるヘリコプターが、これ程見事に写っているのもめずらしい。夕暮れに追われピッチを上げ来たはずだ。小屋番が手を上げて指示してたらもっと感じが出ただろう。私もこの機種には撮影でよく乗る。東邦航空万歳!
八ヶ岳の花
畑野 順二(埼玉県草加市)
【選評】
紫色のオヤマノエンドウ、チョウノスケソウと奥のハクサンイチゲ。岩登りで大同心を登り切ると出会える特別なお花畑だ。何と水々しい咲き方だ。美しい。もう少しアングルを高い位置にし横岳や赤岳を表現すると迫力が出る。
苔むす清流
山下 研作(神奈川県平塚市) 撮影地:夏沢上流の沢
【選評】
苔の美しさは場所と時期でなかなか良いものに出会わない。これはかなり良い所を見つけた。右手奥に小花も見える背後の森の表現も雰囲気が出ている。清々しい冷気が流れて来る様だ。だた右下の岩にもピントを来させたった。スローシャッターももう少し長くするとより幻想的な水流を表現できる。
天水響音
小松 福司(長野県諏訪市) 撮影地:横谷峡 王滝
【選評】
王滝の真下からの迫力ある作品だ。水流のぼかし方が幻想的で、中央のどっしりとした岩の美しい苔や草のシャープな表現と対比して見事である。左右の暗がりも滝の奥行を盛り立て、最上部の紅葉が作品全体の迫力に花を添えていて完成度が高い。中段右手の枝がブレているのが残念だ。
光輝く紅葉の白駒池
佐川 隆博(長野県茅野市) 撮影地:白駒池
【選評】
真紅と金色に光るサラサドウダンが青黒い水面と森に浮き逆光に揺れる。流石に秋の白駒池ならではの絵である。太陽のフレアーも何とかこなし、水面の反射が紅葉にじんで効果的である。ボートの位置も計算された所に置き画面を引き締めている。もう少し天を切り水面を広く表現すると池の広がりと奥行きが出せただろう。
遠望
渡辺 鉞三(長野県小諸市) 撮影地:ビーナスライン
【選評】
艶やか(あでやか)なレンゲツツジが眼に染みる。中景の緑の森も美しい。ゆったりと広がる青いシルエットの八ヶ岳連峰と奥の富士山が対象的であり、ちぎれ雲が更に良い役を買っている。これだけ道具立てが揃っているのにピントが定まらない。三脚を使って絞り込んで欲しかった。風の間を待ち、手前の花だけでもピシッとしたい。
秋の自然園
曽布川 幸江(静岡県浜松市) 撮影地:八千穂高原自然園
【選評】
白樺の林に混在する繊細な紅葉。地を埋める緑の笹の明解な色。S字に蛇行する枯れ葉の道は森の奥へと人を誘う。だが残念なのは、左手から伸びる緑色とはいえ、ロープと鉄棒。左三分の一を切って枯れ葉の道を主役とすれば、少しは落ち着くでしょう。それにしても素敵な道です。