第21回八ヶ岳フォトコンテスト

全国から126名、394点のご応募をいただき誠にありがとうございました。(敬称略)



金賞(茅野市長賞)

氷壁

守屋 萬次(長野県茅野市)

【選評】
硫黄岳に発して千曲川に注ぐ湯川。その流域に冬になると出現する「氷瀑」が被写体である。おそらくそう大きなものではなかろう。が、作者の手により写真表現されたそれはスケール感充分だ。「氷瀑」の上下を適宜カットしたことで生じた「想像の余地」がスケール感を強めている。斜光線によって氷の質感がみごとに表現されており人物の扱い(位置、姿)も申し分ない。踵だけが覗く右足の捉え方など心憎いばかりだ。


銀賞(茅野商工会議所会頭賞)

朝光(ちょうこう)

並木 孝男(東京都江戸川区)

【選評】
冬晴れの朝を迎えた作者の心のときめきが伝わってくる作品だ。画面の核をなすのは中景の蓼科山。遠くに連なるのは、槍・穂高から白馬三山にかけての北アルプス。こうしたコントラストの強い被写体は露出のかけ具合で画面の印象が大きく異なるもの。明部(朝焼け)をむやみに強調せず暗部の描出に意を用いた露出選択がいい。さわやかな朝景色に仕上がっている。


銀賞(茅野観光連盟会長賞)

コマクサ幻想

米沢 直樹(神奈川県横浜市) 撮影地:キレット

【選評】
赤岳南方のキレットが撮影地。そこにひろがるコマクサの群落を確実なカメラアイで捉えている。散在するコマクサの株を左下のものを中心にバランスよく切りとっており、群落と対照的な雰囲気をもつ後景の配置もいい。曇り日のやわらかな光線が効果的にはたらいて、しっとりとした花景色に仕上がっている。コマクサの特性(岩礫地を好む、他の植物と混生しない、など)がよくわかる。質の高い生態写真でもある。


銅賞(小海町観光協会長賞)

朝の白駒池

岩渕 幹夫(神奈川県寒川町) 撮影地:白駒池

【選評】
毎回、多数の応募があり絵柄も似ている「白駒池」だが、本作品には、類形からぬけだそうという意欲、工夫が感じられる。その第一点は縦位置による作画。横位置の作品がほとんどを占めるなかで大げさにいえば「画期的」である。絵づくりそのものがうまい。縦位置画面をそつなく生かしている。とりわけ後景に対する前景の配置がいい。残雪の岸辺を大きく配したことで視覚的変化が強まり季節感が生まれている。


銅賞(佐久穂町観光協会長賞)

目覚める森

八掛 良一(埼玉県川越市)

【選評】
撮影場所の詳しい記載がないので不明だが、樹林が栂林であることや林床の様相からして北八ヶ岳山中における撮影であろう。近景をなす5本の立ち木を中心に、雑然と茂る樹木をうまく整理しフレーミングしている。樹林の調子を暗く落とし陽の光をもっと強調する露出のかけかたもあるわけだが、作者は「多めの露出」を選んでいる。適切な選択である。樹林の表情がよく描出され深みのある絵柄になっている。


銅賞(八ヶ岳観光協会長賞)

暮れる大同心

畑野 順二(埼玉県草加市)

【選評】
横岳西壁の核心部を望遠レンズで捉えたインパクトのある作品だ。変化に富む光線によって複雑な明暗模様が岩壁全体にもたらされそれがこの作品の柱になっている。赤や黄に色づいた夕焼け状態ではなく、日中の白い光である点がここではプラスにはたらいている。明部に「軟派な色」があったならこれほどまでに強い画面にはならなかったであろう。モノクロマチックな調子ならではの「凄み」が感じられる。


ラムダ賞

黎明(れいめい)

小林 茂良(長野県茅野市)

【選評】
陽の出まえの一瞬を捉えた美しい作品。朝焼けの雲、まだ陽のあたらない黒い雲、そして地上ちかくにたなびく帯状の白雲。これら三様の雲の対比がおもしろい。その間隙に配された異質の被写体・八ヶ岳の稜線と列をなす木立とが画面に変化をもたらしている。すべての被写体が横にならぶ画面は独特でおだやかなメロディーがつたわってくるようである。めぐまれた好条件をうまく絵にした佳作。


モンベル賞

諏訪富士遠望

横内 鋼平(長野県岡谷市) 撮影地:原村

【選評】
夏には稲田のひろがるところなのだろう。名残りの稲藁がつまれそれが主役をなしている。この稲藁の山、地元ではニョオとよぶ。辞書には「にお」とあり「にゅう」ともよぶそうだ。「にゅう」といえばそんな名の山が北八ヶ岳にある。綿帽子をつけたニョオは、まるでどんぐりのおばけ。3匹の怪物が雪山をみながら散歩をしているようでおもしろい。ユーモアを感じさせる童話的な作品だ。


長野日報社賞

森のVサイン

桜井 勝美(群馬県群馬町)

【選評】
なかなかユニークなタイトルである。ふつうなら「秋色の森」「枯れ草と白樺林」などといった題をつけるところだ。Vの字をつくっているのはハンゴウソウであろう。この2本の草に目がとまったことで生まれた一作と想像される。まだ夏色をのこす枯れ草の原とモノトーンの白樺林との色のコントラストが好ましい。季節感がよくでた作品だ。画面右下が少々おもたい。「Vサイン」にもうすこし寄って写すとよかった。


茅野市民新聞社賞

秋麗の滝

山下 和人(長野県茅野市) 撮影地:乙女滝

【選評】
秋の横谷渓谷・乙女滝である。人気の高い撮影地で被写体にした応募作も多いが、この作品には「類形」の陳腐さを感じさせない魅力がある。美しく、力強い作品である。適切なシャッター速度による滝の流動表現、紅葉の樹木と滝とのさまざまな対照など画面をささえる要素は少なくないが本作品の内容を大いに高めているのは滝を彩る斜光線だ。計算のうえでの撮影であろうか。それとも偶然であろうか。


努力賞

苔生す渓谷

藤沢 吉幸(長野県茅野市) 撮影地:八千穂高原水無川

【選評】
梅雨どきは苔のもっとも美しい季節。この作品も六月のものである。八千穂高原の水無川とのこと。まずもって苔のあざやかな緑が目をひく。苔の部分全体が一個の生き物のようにみえなくもない。巨大恐竜の背中などを連想してしまうのは選者だけだろうか。深く絞りこんで写された画面はシャープで中心素材である苔のディテールも精細に表現されている力強い作品だ。その力強さは、苔の描写に負うところが大きい。


雲巻く頂

輿水 忠比古(山梨県北杜市) 撮影地:権現岳

【選評】
この作品をみてまず気になったのは画面右上の空間である。カメラをもうすこし左へふっていればと惜しい気がした。この空間によって画面のバランスがやや悪くなっている。左半分がおもたい。左側、画面外になにかあってのフレーミングなのだろうか。それとも意図してこの部分を多めに撮りこんだのだろうか。しかし、わずかな手落ちはあるものの好条件を捉えた見応えのある作品である。権現岳からの赤岳だ。


目覚める霧氷

新井 純子(埼玉県北本市)

【選評】
題名から推察するところ撮影時、作者の心は霧氷に大きく傾いていたようである。じっさい、朝の光に映える霧氷が美しい。が、その心の動きをこの画面はつたえきっていない。感動の対象、霧氷が主題であるならそれをもっと強調するようなスペース配分をしてほしかった。これでは赤岳がでしゃばりすぎである。それはともかく絵づくりそのものは悪くない。「霧氷の山稜」とでも題されたなら文句はつけにくい。


白樺群生

関 武文(長野県岡谷市)

【選評】
色彩感に富む文句なしにきれいな写真である。どの部分をとってもひとしく美しい(たとえば画面を縦に三等分してみてみよう)。紅葉と白樺との「競艶」がみてとれる。しかしこのことは裏を返せばメリハリに欠けるということにほかならない。どこかに比較的強く訴える箇所がほしい。白樺あるいは紅葉の低木の何本かを大きめに扱って変化をつけたならさらによい絵になったであろう。


日の出の飛翔

渡辺 捷二(長野県岡谷市)

【選評】
偶然撮れたものだろうか。それとも、何度もねらいながら空振りをかさねたすえの1枚であろうか。陽の出と鳥の飛翔とをうまくからませている。不確実な要素(飛んでくる鳥の数、位置など)の多い撮影であってみれば、「主題のふたつが中央にあつまりすぎている」などと不満をいっては、きびしすぎよう。トリミングというのは伝家の宝刀で、やたらに抜くべきではないが、ここでは、上部と右とをすこしずつ切ってみたい。


五度目の黒百合平への道

伊藤 裕司(東京都小金井市)

【選評】
つるつるの岩がごろごろした北八ツ道。雨がふるとすぐ水地獄になる北八ツの道。北八ツの道はじつに歩きにくい。選者同様、作者も、そんなふうにおもいながら、いつもここを歩いているのかもしれない。北八ヶ岳の特長的な一面をよくひきだしている。逆光線による「つるつる感」「ごろごろ感」の表現がいい。ただ、手持ちの撮影のためか、ピントが浅いのが気になる。絞りこんで、シャープに表現したい被写体である。


赤岳泰然

向井 定美(神奈川県横浜市)

【選評】
陽が西にまわりかけた、午後の撮影であろう。斜光線によって山肌が立体感ゆたかに描かれている。稜線に舞う雲は風の強さを感じさせ、画面に動感をもたらしている。陽ざしのある赤岳西壁と日陰になった近景との、陽と陰との対比も効果的だ。内容のある、充実いた画面である。被写体、撮影地の新味に欠ける点をのぞけば、非の打ちどころのない作品だ。たしかな腕をもって、ぜひ「独自の題材」に挑戦していただきたい。


冬晴れの天狗岳

中村 好伸(千葉県流山市)

【選評】
前景(硫黄岳の斜面)、中景(箕冠山)、後景(天狗岳)の組み合わせに、さらに遠景を添えて、奥行きのある画面をつくりあげている。斜めの線をもつ雪面、水平な線をもつ樹林、曲線をもつ雪山-前・中・後景がそれぞれ異質な線と質感とをもち、それらの変化が画面の内容度を高めている。基本に忠実な、しっかりとした絵づくりをしており、これといった難点はない。中景、左端に置かれた白い突起が効いている。


氷瀑に懸雪樹

守屋 萬吉(長野県茅野市) 撮影地:横谷峡

【選評】
横谷峡での撮影。季節は一月。前景の「雪樹」が主題とタイトルからわかる。後景の直線美との対照の妙をねらったものであろう。が、前景、後景に明度の差がなく距離感にも欠けるため、ふたつがひとつになってしまっている。主題である「雪樹」が浮きでていない。日陰のフラットな光線状態の下では、これ以上工夫のしようがなかったかもしれないが、精緻な描写のきれいな絵柄だけに残念な気がする。